AE(Acoustic Emission)センサーをご存じですか?
「アコースティック(音響)」という言葉が含まれているため、単なる音センサーつまりマイクロフォンと誤解されがちですが、AEセンサーは主に数十kHzから数MHzといった高周波数帯の弾性波を検出するためのセンサーです。弾性波とは、材料や媒質の内部を伝わる波動のことを指し、材料や構造物の内部で発生する微小な変形や割れ、破壊などによって生じます。
AEセンサーは、これらの弾性波を検出することで、構造物の健全性や異常の兆候を捉え、早期のメンテナンスや修理を促す目的で使用されます。AE技術は20世紀中頃から発展を始め、橋梁やビル、配管、タンク、航空機などの非破壊検査手法として実用化されてきました。
しかしながら、AEセンサーが扱う周波数帯域は数MHzと非常に高いため、IoTのように常時設置・常時測定を行う用途では、膨大なデータ量が課題となります。たとえば、サンプリング周波数が10MHzの場合、わずか1秒の測定で1,000万個のデータが発生します。そのため、データの処理が非常に大変になるだけでなく、専用の処理装置も高額になるという問題がありました。
私が前職で開発に携わった内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「フィジカル空間におけるセンシング基盤技術」事業では、この課題を解決するために、AEセンサーで得られた膨大なデータをAE特徴値と呼ばれる状態指標にリアルタイムで変換する機能をはじめ、複数の他のセンサー(アナログ・デジタル)を接続してマイクロ秒単位で同期計測する機能、さらにはLinux OS上でAI処理を行う機能を1台にまとめた**マルチセンシングモジュール(MSM)**を開発しました。
MSMはソード株式会社において商品化の検討が進められています。

弊社ではソード社と協力して、AEセンサーとMSMを使った以下の検証が可能です。
- 鍛造加工工程における金型の欠陥発生検知、予知保全
- レーザー溶接加状態の監視、検査
- 射出成形品の亀裂発生検知、スクリュー摩耗検知
- 工具、刃具の摩耗状態検知

マルチセンシングモジュール外観(ソード社SR-AEMS、2024.10量産予定)
以下の動画は内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「フィジカル空間におけるセンシング基盤技術」事業において、精密鍛造金型技術のパイオニアである株式会社ニチダイ様と協業させていただいた取り組みを紹介するものです。
ニチダイ様では、鍛造金型プレスダイセットの高付加価値化を最重要テーマとして掲げられており、金型の状態を常時監視するシステムの開発を進められています。金型プレスの状態監視においては、荷重と変位が重要なパラメーターですが、さらに付加価値の高い要素として、金型の疲労状態を検知できるAEセンサーの導入を検討されていたところ、私たちとのご縁をいただきました。
マルチセンシングモジュール(MSM、製品名:SE-AEMS)を用いて、荷重センサー(ロードセル)、変位センサー、AEセンサーを同期して測定することで、金型にかかる荷重の作用状態とAE信号の発生状態とを瞬時に関連付けて把握することが可能となりました。これにより、金型の劣化進行状態をリアルタイムかつ高精度に把握できるようになりました。
この動画は2022年夏に撮影したものでやや古い情報ではありますが、センシングの意義や、センシングによって得られる価値についてご理解いただける内容となっております。ぜひご覧いただき、ご興味をお持ちいただけましたら、お気軽にご連絡ください。